【新型コロナ禍前の福岡の不動産市況について】
(値上がり激しい都心部商業地について)
都心部は天神ビッグバンやホテル需要に支えられて地価は高騰していました。特に天神の再開発に伴う福岡市の発展期待で、インバウンドを初め、会議、コンサート等の開催でホテルが足らない状況があり、本来オフィス用地や都心部近郊のマンション用地にもホテル用地としての需要が押し寄せました。
例として、価格の変遷を記しますと、
平成25年あたりにマンション用地(坪200万)であったところは30%~50%増(平均280万)買いがあり、高級マンションの販売が続きました。
その類似のマンション用地が、駅に近いということでさらに50%~100%増(坪400万~550万)の買いが入りそこにホテルが建ちました。
平成25年あたりにオフィス用地(坪300万)であったところは、ビル付きの投資物件やホテル用地として100%増(坪600万)になり、さらにホテルが足りないということでその70%~100%増(坪1000~1200万)で買いが入ったのがこの2年です。
この2年の取引は入札が多く、1番札が2番札の概ね50%増、すなわち2番札は1番札の概ね70%の価格であり、入札者の価格が飛び抜けて高いのです。この取引価格が周囲の売買に影響を大きく影響を与えることになります。
市場では2番札の水準が市場の正常な価格として把握されていましたが、それでもやや高めの水準でありオフィス賃料の上昇を見込まないと難しい価格でした。
(都心及び都心近郊の高額マンションについて)
市場空前の低金利と景気の緩やかな拡大に伴い、例えば、西新・藤崎・百道浜周辺のマンション価格は専有床面積あたり坪単価180万から3割ほど売値が上がり、しばらく売れた後は一気に売却率が低下しました。
不自然な値上がりに、値が下がることを知らない世代や、超低金利で購入可能価格が上がったことで値上がりし、売れることでマンション用地の需要が高まり、用地不足も相俟ってさらに値上がりする展開となり、売主の社員の方が購入できないような物件を市場に提供することになりました。また事前申し込みが多いことで売主が値を上げることがあり、市場を混乱させることになりました。今回の事態になり外国人等のキャンセルが相次ぐことになった物件もありました。
地価と建築費の上昇で、優良物件である30坪5500万の物件は25坪6000万(例)になり、専有面積の減少&専有面積あたり売却単価の上昇となりました。当然売れ行きは悪くなり、完成在庫が積み上がっている状況です。すでに多くの開発業者はそのリスクから仕入れを半減したり、開発から撤退して仲介や賃貸物件を保有することへ業態を変化させた会社もございます。すでにマンション販売市場においてはそのような状況になっていました。
【現在の不動産市況(新型コロナの影響下の福岡の地価動向:相場観)について】
(都心部、都心近郊の商業地について)
このような市況の時に起きました新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発出です。
(福岡は5月14日に解除されています)
マインド面としては、このような状況でコロナ前の水準で購入する第三者は希有(取引が止まる)でしょう。
このような状況時の相場観について、コロナ禍前の水準・金利・将来性を考慮すると
将来性が豊かな1等地エリアで10%~15%、1等地に準ずるエリアで20%~30%、3等地エリアでは30%~40%程度の価格面での調整が必要(下がって成約に至る水準)になるでしょう。(超1等地は除く)
一方売主はコロナ後の地価ははかなり戻るだろうと思う(思いたい)者は、売り急ぐ必要はありません。売りに出るのは、会社の業績や賃料の下落、空室率の低下で支払いや運転資金に影響がでる、あるいは金融機関に回収を迫られる場合でしょう。
但し、事業用の運転資金は潤沢に供給されるし、新型コロナの関係で金融機関が回収に入ることは基本ありませんので、売り急ぐ取引はコロナ前から厳しかったか、借り入れが多い不動産投資会社さんでしょう。
市場ではワクチン開発がしばらくかかることから今のうちにと数年前に取得された投資用物件の売り(利益出し)が出ていますし、ホテル計画用地で未着工の更地も売りに出ています。
現時点では、取引に合意していた場合は、こういうご時世ですからと値下げ要請があり、十分な値下げがあれば成立し、思うように売り手が下げない場合は破談となります(買い手側の事情:事業の見直し、投資の縮小、資金繰りの関係等)。 したがって、当面は急激な下落した価格の取引事例として顕在化しないでしょう。但し、収益価格は確実に下がっているのですから、売り急ぐとそれは必ず取引時に反映されます。
一方で今がチャンス(希少な土地の供給や値頃感がでた物件)と買いに向かう企業、外国人、個人もあるはずですが、希望単価や総額事情が厳しくなります。買える企業は余裕資金があるまたは金融機関の信用がある会社、富裕な資産家、外国人、現在収益が伸びている業種、大手さん主導のプロジェクト案件に基本限定されます。
金融面としては、購入=金融機関からの融資(個人住宅用を除く)は1年以上前から 地価高騰で厳しくなっていました。今後も通常は評価が厳しくなります。また不動産融資先の選別も行われますので特定の開発がらみを除き、一民間企業の不動産投資への融資はさらに厳しくなるでしょう。企業の運転資金の融資優先であるため、不動産流動用資金は(上記記載の企業さん等を除く)前にも増して厳しくなるのではないでしょうか。
・相場観のところで、コロナ禍前より○○%程度の調整が必要(成約に至る水準)と申しましたが、
下落要因として、商業ビルや賃貸マンションなどの収益物件では、
テレワークの導入やオンライン会議の進展による移動制限やオフィス規模の縮小による①家賃の低下 ②空室率の増大、①と②は収益価格の低下です。③新型コロナウイルスの影響による需要の減退 ④金融機関による融資審査の厳しさ(運転資金優先)があげられます。また、地代の値下げ要求や貸地の需要減退があります。住宅地では所得環境の悪化があげられます。
購入者にはコロナ後を見据えた事業計画(立て直し計画)と数年耐えうる体力(ファイナンス環境)が必要で一般的に様子見が多くなります(一時的な需要の減退)。
ここ1~3年様子見をされていた中小の企業さんが思われていた歪んだ不動産市場。新型コロナウイルスの影響で価格単価面では、一旦落ち着いた相場に向かうのではないでしょうか。
いつか弾けるであろうと考えられるほど高騰していた価格の調整が今後行われ、調整後は土地取得がしやすくなり、事業の発展、街の整備の進展が可能になり持続的な都市の発展が見込まれることでしょう。そして街が発展することにより、数年後には下がった資産価格が再び上昇します。高騰後の取得物件は売らなければ実質的な損失は回避されます。金融機関が企業の体力に合わせて融資総額の調整をされていたり、保有しすぎる不動産を売らせてリスク回避されていたのは高騰した不動産価格に対する危機感の表れでした。
今後はオリンピックの開催可否の問題がありますが、仮に中止となるとこの事態が長引くということであり、経済的な打撃や国の財政面の逼迫は著しく、不動産に対するマインド面の大きな低下になるでしょう。
最後に思いつくまま簡潔に述べますと
1.売り値はすぐには安くならないが、買い手は安いはずだと考える。(土地取得がしやすくなる)
2.金利は低いまま。運転資金は潤沢であるが、不動産投資資金は限りがある。
3.コロナ後数年はコロナ前に戻らない、コロナが1.5~2年で収束としたら3~4年後か。それも全部ではない。
4.インバウウド需要に支えられていた消費はインバウンドの復活(国際空港の完全復活)にかかる。
5.生活様式の変化により多くの需要減→ 一方で需要増もある。全体としてはマイナス。
6.200兆円を超える経済対策の効果の浸透による不動産価格下落圧力の緩和。など
まずは、新型コロナの収束(ワクチン開発等)・・・・そしてインバウンドの復活(国際空港の完全復活)です。
目先の経済的な厳しさはあるものの、将来性ではピカ一の都市ですので、地価変動は必ず都市の持続的な発展をもたらします。
上記の早期の復活が待ち望まれますと同時に、福岡市の都市としてのポテンシャルの高さがこの危機を乗り越え、3年後の地下鉄3号線の博多駅への延伸、天神ビッグバン事業、博多コネクテッドによる開発の進展など、コロナ後の福岡経済の更なる発展が期待されます。
株式会社第一鑑定リサーチ
不動産鑑定士 吉田 稔