突き進むプレイヤーの二極化、いよいよ先行き不透明の状況に!
(昨年11月時点に取材を承った時の割愛された部分を含む内容)

《ミニバブルもいよいよいつ弾けるかという局面に差し掛かってきた。その中で福岡の不動産市況がいまどういった状況にあるのか》

★いよいよミニバブルの崩壊か
(聞き手)地場のディベロッパーでは業態変更も出てきていて、収益物件を購入するなどの動きが見られます。  

 ミニバブルの崩壊が正確にはいつになるとは言えませんが、オリンピック後や首相の交代を機に、弾ける可能性が徐々に高まっています。いまの市況を分析すると、だんだんと物件価格が上がってくるに従い、プレイヤーの数が年々減ってきています。皆さんの心理状態は、今がピークだろうという認識が高く、早晩弾けるかもしれないというところにまで来ていることは確かですし、とくにそうした動向に敏感な方は早々に様子見の姿勢に入っています。

 いま目立った取引がされているとしたら、ホテル業者さんやあとは資本力のある大きな企業さんが中心です。本当に限られた会社さんばかりがメインになっています。そういう環境下にない地場の企業とのまさにプレイヤーの二極化ですが、福岡はここ数年の高騰でリスクが高まっていますので地場中小企業にとっては取得が厳しい状況にあります。

 だから業態変更という話が出てくるのも当然でしょう。かつての例を振り返れば、福岡では40社ほどあった地場開発業者さんの大半は倒産の憂き目を見ていますから、一刻も早く先を見据えた行動を取ろうというのは自然な心理です。また、銀行もこういう状況になってくると簡単に融資しようかとはなりません。支店長クラスの役職者にとってはご自身の将来がかかっていますし、これだけ地価が高騰すれば、例えそうでなくても慎重にならざるを得ません。

 もっともこうなることは3年前くらいからずっと言われ続けていたことです。今年が最後か、今年が最後か、と繰り返されていましたが、その度に地価が上がる施策を打ち出してきましたから、ミニバブル崩壊には至らなかったという見方もできます。もういよいよだとは思いますが、それでも先日は日本銀行がさらに金融緩和をする余地があるとアナウンスしていましたね。これ以上どんなことができるのだろうか(譲渡所得税の減税などがあれば別ですが)とは思いますが、不透明感は漂っています。

 それに忘れてはならないのが、日本を取り巻く外的な要因です。リーマンショック、サブプライムローンのような世界を一気に襲う危機だって起こらないとは言えません。また、日本は韓国や中国、北朝鮮といった周辺国の影響によるカントリー・リスクも抱えていますから、転換の時期がこれらの状況に左右されることは言うまでもありません。

(聞き手)天神のある場所ではリーマンショックで一気に値下がりし、2014年頃から上昇したという例を見ました。また3年ほど動きがない空白時期がありましたがこれはなぜでしょう。

 本来、8年半前の東日本大震災がなければ上昇しようとしていたものが、その影響により見合わせ状態になっていたんですね。また、その時期は現在の政権と異なっていましたから、誰も動くことができなかった。株価も低迷を続け予算も削る施策が多かったので、そこで空白の時間が生まれてしまったわけです。不動産価格の変動には、なんといっても政府の施策が大きな影響を及ぼします。

 日銀のマイナス金利政策導入や安倍首相が3選を果たすなど、到底予測できないことが日本の中心では起こります。それに税制や税率の変更が拍車をかけます。だから私たち不動産鑑定に携わる者としては、「そうした予測しえない特別の事態がなければ、将来の不動産価値はこうなります」とお話しすることで納得していただいています。

 福岡では昔からよく「宗像が上がれば早晩地価上昇は止まる」と言われています。宗像市は福岡都市圏から見ればいちばん端っこになりますし、福岡市と北九州市のちょうど真ん中です。地価上昇はまずは福岡市の中心部から始まり、それがドミノ倒しのように放射線状に周辺エリアへと拡がっていくわけですが、最終地点の宗像の地まで地価上昇が及ぶようになれば、それはもう打ち止めになるということです。

宗像 道の駅

★天神博多の可能性は
(聞き手色んな指標が崩壊のシグナルを発しているんですね。その一方で福岡市は天神ビッグバンや旧青果市場跡地の開発といった話題もあります。  

 確かに天神地区は福岡市主導の規制緩和による民間再開発促進事業・天神ビックバンの対象地域になっています。今後老朽化したビルが集約・建替され、街の風景は大きく変わっていくでしょう。福岡市都心部で計画されている再開発事業としては最大規模ですから天神に大きなインパクトを与えることは間違いありません。

 現在は、建替のための建物の取り壊しに伴う床の減少や開発に伴うテナント移転のために押さえた床のために、市場では移転する事務所床がない状態になっており、賃料が値上がりしています。5年後に開発が完了すればそこがどうなるかです。新築の再開発ビルの状況はいいのでしょうが、いつまでも景気がいいということはありませんので、古いビルや周辺エリアの需給のバランスが崩れなければいいのですが。

福岡ビル(天神ビッグバンの本丸)

 旧青果市場跡地は、長年に渡り市の青果物流の拠点としての役割を担ってきましたが、施設の狭隘化・老朽化等により東区のアイランドシティへ移転しました。青果市場跡地については、新市場用地取得の財源とするために跡地処分を行うのですが、処分に際しては広域交通拠点である福岡空港、博多駅と近接した立地環境を踏まえ、地域や福岡市の魅力あるまちづくりに寄与する跡地活用が期待されています。跡地活用が周辺に与える影響も大きいでしょう。

 また、九州大学箱崎キャンパス地区の再開発では、先端技術を活用した次世代社会インフラの街「スマートシティー」実現を目指していますね。再開発事業者の公募を2020年度から始め、22年度から順次着手するとしています。IoTやAIを活用した自動運転導入のための道路整備やIoT活用をにらみ無線通信網も整えるそうですから期待したいですね。

(聞き手そうしたことも手伝ってか博多エリアの上昇が凄まじいという印象です。

 以前は天神と博多の価格比が10対5程度であったものが、10対7程度になっていくイメージでしょう。とくに博多駅2丁目、3丁目の幹線背後地域は、現在集中的に開発されていますから、以前とはまったく異なる街になりつつあります。以前ならここが博多か?と思うような寂れた印象だった街が、再開発でどんどん刷新されています。これからもっと変わっていくでしょう。

博多駅前1丁目付近

 福岡市のこれまでを振り返ると、市営地下鉄、そして西鉄大牟田線の沿線ということで縦横が発展してきたわけですが、それがやがて斜め方向に広がり、その延長として例えば志免や宇美といったエリアの地価上昇へと発展してきました。

 確かに都市部から離れた場所は通勤通学などには不便かもしれません。駅まで送迎する必要があったり、バスを乗り継いだりといったことがネックになります。でも、そのぶん住環境がよかったり敷地面積を大きくして買えたりしますから、一概によくないとは言えないでしょう。利便性と環境、双方を天秤にかけていくことでしょうね。そうした視点で見ると地価水準が高いエリアは広い土地を分割して買いやすい価格にしています。こういう現象があちらこちらで起こっていますね。

(聞き手その他に注目すべきスポットはありますか。竹下は博多駅から一駅ですし、利便性に優れているように思いますが商業地として発展しないのはなぜでしょう。

 注目すべき街は香椎千早地区です。香椎は現在区画整理中で変貌を遂げつつあります。千早は区画整理済みで、東区の中心地になりつつあります。地価も空地が多いときに比較して2倍程度になっており、高層マンション等が林立して発展著しい街になっています。

 竹下駅周辺ですが、おっしゃる通り利便性という点ではとても優れたエリアでしょう。しかし、一歩入り込むとアパートばかりが建ち並ぶ街です。ファミリー層には持ち家としてはちょっと敬遠されるし、ディベロッパーもまとまった土地を手に入れづらいから優良なマンションなどは少ないエリアでしたね。住まいというのは投資対象として買う場合と、実際に購入者が住む場合があり、かならずしも後者ばかりではありません。このエリアは駅近で賃貸需要があるからそうなっているわけです。青果市場跡の再開発計画により竹下駅周辺の地価は上昇しています。道路事情があまり良くないので、背後地域は低層建物が多く、商業地としての背後人口は少なく、また博多駅に近いのと郊外型店舗の進出により商業地としての立地に優位性がなかったからです。

★その他
(聞き手)全国各地で災害が続いていることから、意識が変わってきているかと思います。不動産鑑定士のお立場からはどんな変化をお感じになられますか。 

 いわゆる砂防3法、これに土砂災害防止法を加えた砂防4法によってつくられた災害マップは必ずチェックしますし、イエローゾーン、レッドゾーンについては鑑定書に具体的に記載していきます。山が近い場所に大きく関わるので、買う側にとっては重要なチェックポイントですね。また水害関係ではハザードマップの活用も大事です。とくに一生に一度の買物あるいは次の世代に遺す財産としての購入ならとても重要な視点になってくるでしょう。

住宅購入者に対するアドバイスですか?戸建の場合は買い手に地域的選考性があるのと買い手の購買力の大小の問題になってきますから、一概にこうした方がいいということは言えませんね。強いてアドバイスするなら、安いものには飛びつかないということでしょうか。

 マンションの場合は、立地と空間は動かせませんから、例えば目の前の用途地域が商業地域で、将来別のマンションが建って眺望日照が悪くなる場合も多いのでしっかり見ておくべきでしょう。

(聞き手)この本は建設業の皆さん、そしてマンションディベロッパーの皆さんが主にご覧になられます。そうした方々に向けてアドバイスを頂けますでしょうか。

 アドバイスなんて僭越です。一般論として土地購入の考え方に容積率を指標とした見方があります。これが一定の価格以下なら買いだし、以上なら控えた方がいいというものです。でもこれも完成在庫が積み上がっている状況からシビアに見ると買えない、在庫が少ないからとイケイケになると完成するまでに時間がかかりますから、その間に何かが起きたらというリスクがあります。プレイヤーが減って大手がどんどん入ってくる状況において、中心部は完全にそういった企業の独擅場になりつつあります。地場企業の皆さんは福岡市周辺市や他県の県庁所在地エリアに活路を見出そうとしているようです。多くの専門家や市場精通者などに聞く耳をたくさん持つことが大切のように感じます。

 投資物件を扱うある会社の社長さんは、福岡は高くなり過ぎたからまだ東京がいいということで、福岡に部隊だけを残し出ていきました。東京は裾野も広いし資金調達をうまくやれれば勝機はあると見込まれているようです。それだけ福岡の価格が上がったということでしょう。福岡市はここまで地価が上昇するともう何が起こるかわかりません。とくに外的なことはまったく予想できませんから、大手企業もしくはよほど資金力に余裕のある方だけの市場になっています。

 金利が上昇しないことでの安心感はありますが、潜在的にリスクを抱え込んでいる状態は継続します。しかし、物件価格が仮に20パーセント下がったとしても100パーセント融資に頼っているのでなければ、それも良しという考えもあります。また、そうなれば買い時のチャンスが来ることになりますし、実際に富裕層の方々はそれをじっと待っている状態です。

 一般的には、リスクを可能な範囲で避け、健全な経営体質を維持しておくことが資金調達の優位性や優良物件の取得に繋がるでしょうし機動力に優れます。他県の県庁所在地や郊外での開発が増加中である一方で東京への進出等市場が大きな所への試みも多く見受けられます。リスク分散を図りつつ、需要を広範囲に求められているようです。

 マンション開発に比し、戸建住宅市場の安定性は魅力です。また、いずれも何らかの付加価値を加えることで差別化する工夫をし続けることが肝要です。

 本業の開発、建設のみならず、収益物件の獲得に始まった業態の拡大や異業種への進出、さらに不採算部門の切り離しも合わせて進められることが種々の解決策に繋がることでしょう。

株式会社第一鑑定リサーチ
不動産鑑定士 吉田稔